
【ご相談内容】相続放棄と処分権限
父親の借金が多かったので、相続放棄をしました。
ところが、私が聞いたこともない不動産(土地)が出てきました。
小千谷市なので、父の母方の実家のあるところですが、固定資産税の請求が来て、初めて知りました。
また、そのことをどこで知ったのか分からないのですが、不動産業者の方から、その小千谷市の土地を売ってほしいと申しこまれました。
その土地について、相続登記をして、さらに移転登記をすることができますか?
要するに、売っても大丈夫でしょうか?
別に、大した土地ではないと思うのですが、その不動産屋さんがあまりに熱心なもので、協力できるならしてあげてもよいかなと思った次第です。
もし、移転登記できないとすれば、そのまま放置するのでも良いのですが、一旦、相続放棄をした後に、その撤回をすることができるのかも知っておきたいので、よろしくお願いします。

【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~
相続放棄をしたら遺産には手を付けられない
裁判所と法務局は異なります。
相続放棄は裁判所に対して行われますが、不動産の相続登記は法務局に対して行われます。
相続放棄については、法務局で登録される等の手続きがありません。
従いまして、相続放棄手続と不動産の相続登記の手続きはその意味で連動しておりません。
しかし、相続放棄をしてしまっているのですから、あなたにはその遺産を売る権限・権利がありません。
ですので、自分に管理処分権限がない財物を売却してしまうということは、法律上、不可能なのです。
不動産屋がいくら熱心に売ってくれと言っても、相続放棄したので売る権限がないと説明すれば、不動産屋もそれ以上は何も言って来ないとは思います。
ただ、何かの事情でその土地をどうしても入手しなければならない事情があるのだとしたら、不動産屋としては、場合によっては相続財産管理人を立てて、その管理人を相手に不動産を購入する話をすることになるでしょう。
もちろん、あなたが相続放棄の撤回をすることができれば、相続放棄をすることがなかった=相続した、ということになるわけですので、その場合にはあなたから購入することができます。
相続財産管理人を立てて、その人を相手に交渉することが面倒なので、相続放棄の撤回をすることが可能ならそうして下さい、と言ってくるかもしれません。
相続放棄の撤回は簡単ではない
もちろん、相続放棄の撤回はそんなに簡単な手続きではないですが、それなしでは、不動産(土地)を売却する有効な手立てはないでしょう。
それで、「相続放棄の撤回」についてですが、
相続放棄の撤回は、無条件でできるわけではありません。
相続放棄の撤回が認められるのは、限定的な場合
相続放棄の撤回が認められる場合とは以下の通りです。
1) 詐欺または強迫
2) 未成年者が法定代理人の同意を得なかった
3) 成年被後見人本人が相続放棄した
4) 後見監督人がいるにもかかわらず、被後見人もしくは後見人が後見監督人の同意を得ないで相続放棄した
5) 被保佐人が保佐人の同意を得ないで相続放棄した
上記のうち、2)~5)は、後見がらみです。
2)の法定代理人には未成年後見人も含まれます)。
よくある相続放棄の撤回理由は詐欺・脅迫
というわけで、通常あるのは、「詐欺または脅迫」です。
あなたが、例えば、誰かから、本当は亡くなったお父さんに借金などないのに、
「借金があるから相続放棄しないと借金を負うことになるぞ!」
と言われて、つまり騙されて相続放棄した場合や
あなたが、例えば、誰かから、「お前が相続放棄をしないと、もうこの家には住めなくしてやるぞ!」
と言われて、つまり脅されて相続放棄した場合、などは相続放棄を撤回することが認められます。
手続き(期間)上の制限
ただし、手続き的にもいろいろ制限があり、
詐欺にあったこと、ないしは、騙されていたこと、が判明した時、
あるいは、
脅されている状態がなくなった(脅してきていた人物が死んだ等)時、
から6か月以内にしなければならないのと、
相続放棄から10年以内にしなければならない、
という期間的な制限があります。
裁判所における審尋
実際には、相続放棄の撤回に当たっては、裁判所での審尋がまずは開かれると思ってよいでしょう。
そこで、裁判官から、なんで、今頃になって、相続放棄を撤回するのか、と、いろいろその理由を質問されるので、それに対して、的確に、詐欺にあって騙されていた状況・経緯、脅迫されてやむなく相続放棄した事実関係等を説明できなければいけません。
なお、念のためですが、相続放棄はもう受理されているのですよね?
もし、相続放棄の書類は出したけれども、まだ正式に受理されていないということであれば、そもそも取り下げすることができます。
他方、受理されてしまっているのであれば、不動産を処分したいなら相続放棄を撤回するしかないので、もし、どうしても、その不動産(土地)を売却したいのであれば、相続放棄の撤回をまずしてください。
ただし、よく検討してください。もし、不動産を売ってなにがしかのお金を手に入れることができたとしても、相続と言うのは債務・負債も承継する手続きですので、大変な相続放棄の撤回をしたものの借金が降りかかってきたなどということにならないように注意してください。