
【ご相談内容】 相続放棄と相続財産管理人による負債の処理(債権回収)
私の両親は阿賀野市でともに健在なのですが、私が東京に出てきた後に両親は離婚しました。
私は、母とも父とも同じような距離で交流をしております。
母は、一人暮らしなのですが、先日、母の家に行った帰ったところ、多数の請求書・督促状を隠してあるのを見つけてしまいました。
「どういうことなのか?」
と問い詰めたところ、
寂しさを紛らすために、ギャンブル(パチンコ・競馬)を始めたら、どんどん借金が膨れてしまったとのことです。
クレジットカードのキャッシング、銀行カードローン、そして、 ついには、 消費者金融へとつぎつぎ手を出し、借金が膨れ上がってしまったとのことでした。
母の家は持ち家ですので、家を売れば、トントンぐらいにはなるかもしれませんが、ひょっとしたら、それでも足りないかもしれません。
そして何より、家を売ると、母が住むところがなくなります。
ただ、東京に出てくるつもりもないようですし、不謹慎・親不孝かもしれませんが、母とは同居できません。
私の妻と娘たちもきっと拒否すると思います。
とはいえ、役所の無料相談では、借金の整理のために自己破産をすればよいとのことでしたが、やはり、家は手放さざるを得ない、とも言われました。
母に話したところ、
「破産する金もないし、もうどうにもならないから、家が競売にかかるまで暮らし続ける」
「そこまで生きているかどうか分からないし」
などと、やけくそみたいなことを言っていました。
どうなんでしょうか?
もし、母が死んだ場合には、その借金は私たち家族にかかってくるのでしょうか?
相続放棄はできますか?
その場合、母の家はどうなりますか?
他方、父は個人事業として、運送業を営んでおります。
始終忙しく働いており、傍から見れば、商売繁盛のように思われますが、かなりの借金があります。
請負仕事の単価が安いので、薄利多売どころか、利なし多売なのです。
しかも、一度ミスが起きるととんでもない賠償金も発生するので、私の兄が現在、専務として働いていますが、私には、
「親父が死んだら商売はやめる」
「それでも借金が残るだろうし、俺(長男)は親父の連帯保証人だから、多分、俺(長男)も、自己破産しないといけない」
「お前(私)にまで迷惑をかけることになっては申し訳ないから、今から相続放棄をしておけ!」
と言ってきています。
ただ、父親もまだ現役で働いておりますし、そもそも、父親が死んだ時点で借金があるのかも先のことで分からないですよね?
何より、父親が死んだら、その借金まで相続することになるのかも、本当なのか分かりません。
別に、もともと、父にお金がないことは分かっているので、相続放棄をすることについて、強く抵抗するつもりはありません。
ただ、兄の説明が本当に正しいのか、相続放棄をしておけばそれで済むのか、が気になります。

【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~
死んだらお終いは、ある意味では真実
お母様の言うことは、やけくそにも聞こえますが、自己破産する費用もままならないのだとすると、ある意味、そのまま自宅が競売にかかるまで自宅に住み続ける、という方法しかないかもしれません。
仮に、お母様に万一のことがあり、亡くなったとして、しかも、何もしなければ、あなた(あなた方家族ではない)がお母様を相続することになり、結局、お母様の借金の返済義務も承継することになってしまいますが、相続放棄をすることはできます。
というか、 相続放棄をしなければなりません。
相続放棄すると母の家はどうなる?
お母様の不動産は、相続放棄をするのであれば、手を付けてはなりません。
相続放棄をして、あなたにはお兄様がいるとのことですので、お兄様が相続することになります。
お兄様が相続放棄をするとして、さらにお母様に兄弟姉妹がいる場合には、その方々が相続することになります。
そして、その兄弟姉妹が相続放棄をすると、もうその先はありません。
(念のためですが、お母様のご両親は、すでに、もうご他界していることを前提としたお話です。)
そうすると、誰も相続人がいない状態になります。
誰も相続人がいなくなると、本件のような場合には、どこかの債権者が相続財産管理人の選任請求をするでしょう。
そして、債権者は、その相続財産管理人を相手どって、訴訟を起こし、競売を申し立て、その競売の落札代金から、債権を回収することになります。
生前の相続放棄の有効性と債務の相続
(1)生前の相続放棄はできない
大前提として、現在、お父さんがまだご存命なのですから、相続放棄はできません。
生前に相続放棄をすると書面を作ったとしても、それは無効とされています(東京高裁昭和54年1月24日)。
「相続放棄しろ」とお兄さんは言ったのですよね?
ひょっとして、「遺留分放棄しろ」とは言いませんでしたか?
「遺留分放棄」でなく、たしかに、「相続放棄」だったとしたら、
お兄さんに、「すいませんが、生前に相続放棄をすることは認められておりませんので無理です」
と言えばおしまいです。
(2)相続放棄をしなければ借金相続する
ただ、お兄さんが言う通り、お父さんが死んで、もし、お父さんに借金があるということであれば、たしかに、相続放棄をしなければ、借金も相続の対象となります。
いくら、相続人間で
「おれが借金を全部、引き継ぐから」
といっても、それは、相続人間の約束に過ぎません。
例えば、お金を貸している銀行側からしたら、そんなのは相続人間で勝手にされた約束なのだから、預かり知らない話です。
「こちら(銀行)は、法定相続分に従って、被相続人(お父さん)の負債・債務の返済を求めます」
と必ず言ってきます。
(3)法定相続分で負債を相続(承継)する
被相続人の負債は、法定相続分に従って分割されて承継されます。
ただし、すでに述べたように、当事者間で、
「おれが財産も全部もらうから、借金も承継するよ」
という約束自体は当事者間では有効です。
ですので、もし、それに反して、例えば、銀行から請求されて、その分を支払った場合には、
「あなたが借金も承継するという約束なので、私が代わりに銀行に支払った分については、あなたが支払って(私に返して)ください」
とあなたへの返済を要求することができます。
もし、相手がそれに応じない場合には、債務不履行(約束違反)として、裁判に訴えることもできます。
いずれにせよ、相続放棄については、先ほど、ご説明した通りで、生前にはできないわけです。
あなたがおっしゃる通り、お父さんが亡くなる時点では、会社も借金もどうなるかが、まだ分からないわけですから、その時に検討すればいいと思います。